相続税では調整区域の土地の評価に注意!評価額が30倍以上変わる事例も

相続税を計算する上で、最も注意が必要な項目の一つが土地の評価です。特に、調整区域にある土地の評価は判断を誤ると、評価額が30倍以上変わる可能性があり、細心の注意を払う必要があります。今回のコラムでは、調整区域の土地の評価方法と注意点について解説します。

相続税の土地の評価方法について

土地の評価方法は大きく分けて「路線価方式」と「倍率方式」に分類されます。基本的には、市街化区域にある土地は路線価方式で評価し、調整区域にある土地は倍率方式で評価するのが原則です。

市街化区域(路線価方式)の土地評価
路線価評価をする市街化区域の土地は、地目が宅地であっても、畑であっても、その土地に接する路線価により評価を行うため、地目が違っていても接している道路が同じであれば、評価に大きな差はでません。そのかわり、各土地の形状により、100の土地があれば100通りの評価方法となるため、税理士の腕の見せ所といえます。

調整区域(倍率方式)の土地評価
一方、調整区域では、地目ごとに固定資産税評価額に定められた倍率を掛けるシンプルな計算方法です。地目には、宅地、田、畑、山林、原野などがあり、それぞれ地域ごとに倍率が設定されています。一見、誰が計算しても同じ結果になるように思われるこの評価方法ですが、ここに大きな落とし穴があります。

調整区域の評価で注意すべきポイント

それは、地目上は「畑」になっていても、実際は資材置き場として利用しているなど、実際の利用状況がいわゆる「雑種地」になっているケースてす。

畑は固定資産税評価額は宅地に比べ遥かに安いため、名目上の畑で評価してしまうと、その後税務署から、「地目は畑になっていますが、実際は畑として利用しておらず、これはいわゆる雑種地ですね。雑種地は基本的には宅地に比準して評価を行うため、近傍宅地の単価を確認し、それに面積をかけ、更に宅地の倍率をかけた評価をしてください」という指導を受けることになります。

畑では30万円の評価でよかったものが、宅地比準で1千万円の評価になってしまい、追徴の贈与税を何百万円も徴収された!という相談を受けたことがあります。

雑種地の課税にも注意

また市区町村が課税地目を「雑種地」としているケースも注意が必要です。もともと田畑より高い、固定資産税評価額が付されていますが、宅地に比べると遥かに安い金額になっているのが通常です。

例えば駐車場で貸している「雑種地」などは、これは「宅地」と同様とみられ、近傍宅地の単価に引き直して計算しなければならない所を、もともとの雑種地の固定資産税評価額に倍率をかけて計算してしまうと、本来の宅地比準の価額の3分の1の評価になってしまい、これも税務署に指摘され、相続税の修正申告に応じなければならなかったという経験談を相談者から受けたこともあります。

このように、調整区域の倍率方式の土地評価は、現況に基づき評価をする必要があるため、必ず現地調査を行い、生前の対策であれば、荒れている土地は手のかからない栗の木を植えるなど、畑として利用し続ける体制を作ることもとても重要な対策となります。

<専門家による監修>
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<監修:西村 敦正>
千葉県出身、専修大学卒業後、公認会計士山田淳一郎事務所に入所。税理士資格取得後、船井財産コンサルタンツに転職し資産税専門税理士として活躍。2004年に税理士法人BAMCを設立し代表税理士に就任。その後事業承継案件1000件以上を手掛けるなどの実績を誇る。2014年に開通した東京都市計画道路環状2号線(マッカーサー道路)にかかる事業用地の資産活用コンサルティングや秋葉原再開発に伴うCRE戦略を手掛けるなどの実績を併せ持つ実務家でもある。

※当記事は税理士などの専門家の監修の下、細心の注意を払って作成しておりますが、万が一内容に不備があり、読者に不利益や損害が生じた場合でも、㈱BAMC associatesは責任を負いかねますのでご了承ください。記事に関するご指摘は、大変恐縮ですが、当事務所の「お問い合わせフォーム」からご連絡ください。ただし、記事に関するご質問は回答出来ませんので、あらかじめご理解のほどお願い申し上げます。

妻の貯金やへそくりに相続税?実例解説付き!【BAMC税理士 西村 敦正】

母のへそくりは父の相続財産!?

今日は、相続税の税務調査で最も指摘されやすい「夫婦間の生活費のやり取り」についてお話しします。

不動産賃貸業を営んでいたAさんが亡くなりました。
Aさんには、60年間寄り添ってきた奥様がいます。

相続の申告手続きを進めるには、まず故人の財産を特定しなければなりません。

Aさんには、銀行や郵便局に預けていた預金が約8,000万円ありました。
一方、奥様も銀行や郵便局にほぼ同額の預金がありました。奥様は、これを「50年以上かけて自分で貯めたお金」であるとして、Aさんの相続財産に含めず申告しました。ところが、税務署から「これはAさんの財産である」と指摘を受けました。

奥様の話を聞くと、こうおっしゃいました。

「お父さん(Aさん)から毎月50万円の生活費をもらっていました。その中から、余分な出費を抑えて毎月15万円を将来のために貯金してきました。さらに、私はお父さんの不動産事業を支えるため、帳簿の作成や税理士さんとのやり取り、管理会社との窓口業務もすべて行ってきました。これだけAさんや家族のために頑張って貯めたお金が、どうしてAさんの相続財産になるのか全く納得できません!」

確かに納得のいく話です。

しかし、日本では財産に関する考え方として、夫婦間であっても「収入の根拠に基づき、その収入は得た本人に帰属する」とされています。
奥様がどれだけ支えたとしても、収入の根拠となるアパートを所有しているのがAさんである以上、その収入はすべてAさんの財産と見なされます。

では、どうすればよかったのでしょうか?

このケースでは、奥様がAさんの不動産事業に関わる人として、Aさんから「給与」を受け取る形を取ればよかったのです。
(家族で一緒に暮らしている場合は、税務署に「専従者」として届出をすることで、その給与をAさんの不動産所得の経費に含めることができます。)

たとえば、毎月50万円を生活費として受け取るのではなく、以下のように分けます。

・35万円を生活費として受け取る
・15万円を給与として受け取る

給与として受け取る場合、源泉徴収税が引かれるため、15万円の手取り額を得るには額面をやや上乗せする必要があります。

生活費として受け取ったお金は、あくまでAさんから「預かっているお金」です。預かったお金は、たとえ50年が経過してもAさんの財産とみなされます。
一方で、給与として受け取ったお金は、奥様の収入と認識されるため、税務署も奥様の財産として扱います。

贈与という主張は可能か?

「毎月15万円は贈与されたお金です」と主張することはできるのでしょうか?

確かに、贈与契約書を取り交わし、双方の贈与意思が明確であれば、そのお金は奥様の財産と主張できる可能性があります。さらに、贈与税の時効は6年のため、6年以上前の贈与であれば課税されません。

ただし、この場合、税務署はこう指摘するかもしれません。

「贈与契約書がありますね。お互いに署名・実印もありますので贈与の意思は確認できます。ただ、贈与の意思があるにもかかわらず、なぜ贈与税の申告をしていなかったのですか? それは贈与税を回避するための意図的な行為ではありませんか?」

もし税務署が「悪意をもって申告を怠った」と判断すれば、時効は7年に延びます。その上、重加算税(本来の税金に加えて40%のペナルティ)が課されます。さらに、他の財産の計上漏れも「隠蔽行為」とされ、すべて重加算税の対象となるリスクがあります。

生前対策をしっかり行いましょう

こうしたトラブルを防ぐためには、それぞれの収入の根拠を明確にしたうえで、適切な贈与や相続対策を行うことが重要です。
たとえば、以下のような方法があります。

・どのくらいの金額を、何年かけて贈与するか計画を立てる
・令和6年から始まる新しい相続時精算課税制度を活用する

生前からしっかりと相続対策を行い、余計な税負担を回避しましょう。

相続税の調査官はとにかく金(きん)に目の色を変える!【BAMC税理士 西村 敦正】

秋も深まり、相続税の税務調査も大詰めを迎えるこの時期。
今日は相続税の税務調査官が、とにかくこのキーワードには目の色を変えて色めき立つ「金地金」についてお話ししましょう。

税務調査の現地調査で「金」というワードが話題に出ると、調査官の声のトーンが確実に上がり、目の色が変わり、空気が変わるのがわかります。

相続税は財産価値のあるものに課税されるため、高額な絵画、骨董品、ダイヤモンドやプラチナ、真珠などの装飾品も当然課税対象です。

しかし、ダイヤモンド、骨董品、絵画に対しては、調査官の声のトーンは上がりません…。

なぜでしょうか?
これには大きな理由があります。その答えは明快です!
税務職員も一般の人間であり、真珠やダイヤモンド、絵画が本物か贋作かを見極める能力はありません。

仮にピカソの本物の絵画が調査官を通す応接間に飾られていても、それが本物であると判断し、「申告書に記載がありませんね!はい、2億円の申告漏れです。」と断言する能力はないため、まず指摘されることはないのです。 唯一指摘されるケースとしては、そのピカソの絵が亡くなる数年前に購入され、通帳に2億円の支出が記録されている場合です。大きな支出は徹底的に調べられるため、支払先が画廊であれば、絵画の存在がチェックされるでしょう。

一方で、代々承継された財産で、先代の相続でも相続財産に計上されていなければ、「贋作ですよ」と回答した相続人から絵画を取り上げ、専門の鑑定士に依頼するようなことは調査官にはできません。 なぜなら、相続人本人も「本物だ」と伝えられていたとしても、何でも鑑定団に出さなければ本当の価値はわからないのですから、申告しなかったとしても脱税行為とは言えないのです。

GINZA SIXには刀の販売店があり、1本1,000万円の名刀が並べられていますが、床の間から出てきた刀について、調査官が本物かどうか判断する能力はありません。(実際に「鞘から抜いて見せてください」と言われたこともありますが、その後話題に上がらずスルーされたこともあります)

したがって、床の間から刀が数本出てきたとしても、それは無視されます。

しかし、金だけは別格です!

なぜなら、本物の金には本物を示す「刻印」が必ずあるからです。金の純度により、「日本国旗に999」や「K24」、「K22」などの刻印が定められています。 ぜひ「金の刻印」で検索してみてください。 つまり、金の質感を見抜けなくても、刻印を確認するだけで本物かどうかがわかります。しかも、金の価格は相場で明確なため、亡くなった日付の申告漏れについて、すぐに「いくらです!」と指摘できるのです。

加えて、金の20年前の価格は1gあたり1,100円でしたが、2024年11月7日現在では14,000円。12倍以上の価値です。ちなみにプラチナは2,300円が5,400円で、およそ2倍程度。この点も、調査官が色めき立つ理由の一つです。

昭和の時代には、企業の50周年記念などで純金のメダルを記念品として配るケースもよくありました。 私にも苦い経験があります。銀行の貸金庫から聞いたことのない企業の記念硬貨が出てきて、財産価値があるとは思わず見逃してしまいましたが、調査官は金の刻印について徹底的に教育されています。 その刻印を読み取られ、数百万円の計上漏れにつながってしまったことがありました。

つまり、昔価値が低かった時代に出回った金は、持っている本人が価値を知らないまま調査の日を迎えるため、現在の価値を知る調査官がこれを発見すると、色めき立つわけです。

ですから、金色の物体を見つけたら、まず刻印を確認しましょう。

しかも、現在高額な金に相続税が課税され、いざ相続税を納めるために金を売ろうとすると、金は所得税の総合課税となるため累進税率が適用され、最大で55%の税金が課されることもあります。 税金を払うために金を売ったのに、そこで半分程度の税金が取られてしまうと、相続税を払ったらほとんどお金が残らないため、悩みは尽きません。

金を見つけた際には、ぜひご相談ください。